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性ホルモン勉強会(2020年3月24日)

更新日:2022年1月28日

「町のシンクタンク ラボラトリ文鳥」では、分野や立場が違う人々が、共有できるようなテーマで勉強会を企画しています。今回は性ホルモンに注目し、自分自身の心身の調子を知るための手がかりにすること、そしてその延長に、精神疾患や性自認(自分が属していると思う性別のこと)を取り巻く状況を知ることを目指しました。


ホルモンは、環境や状態に合わせて分泌される量が増えたり減ったりし、ヒトの体を安定した状態にキープしています。「ホメオスタシス」あるいは「恒常性」と言われるこの状態は、心身の好不調を深く理解する上で、概念としても鍵になりそうです。


 当日は創薬、精神医療、そしてクィア論研究に携わっている方に、それぞれお話をしていただきました。参加者のなかには、教育学、芸術表現、言語学、移民研究など、さまざな分野の人々がおり、性ホルモンについて多様な視点から考える有意義な時間となりました。


以下、より詳しく報告します。



ホルモンの種類と作用

ひとえに「ホルモン」と言っても、視床下部・下垂体ホルモン、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン、血糖を調節するホルモン、性ホルモン…などなど実に様々な種類のホルモンがあります。ホルモンは体の健康を保つ為の「潤滑油」でそれぞれ異なる機能を保っており、ヒトの体の恒常性にホルモンは欠かせません。


今回の勉強会で特に着目した性ホルモンには「性徴・第二性徴の発現、生殖器の発育や、精子または卵胞の成熟、妊娠の成立・維持などに作用」するはたらきがあります。「男性ホルモン」「女性ホルモン」と呼ばれている性ホルモンにも、きちんと名前があります。


男性ホルモン

・テストステロン、ジヒドテストステロンなど

・筋肉や骨格の発達、体毛、男性性器の発育と機能維持

女性ホルモン

・エストロゲン、プロゲステロン

・主に思春期以降の第二次性徴を促す

・子宮内膜に受精卵が着床しやすいように整え、妊娠後はそれを維持

これらの性ホルモンが減少すると、更年期障害の症状として自律神経失調症状、精神神経障害などが出現します。これらは女性のみならず男性にも関わります。


ホルモンと精神疾患


ホルモンの量の変化は、気分に影響をもたらすようです。うつ病をはじめとする精神疾患については、複数の要因(多因子疾患、遺伝的要因、環境的要因)が合わさって発症するとされ、様々な仮説が存在しているようです。


特に興味深かったのは、女性ホルモンとうつ病に関してです。女性ホルモンを増やせば更年期のうつ病は改善する、という単純な話ではなく、女性の更年期障害に関するうつ病の原因は、女性ホルモンが、上がったり下がったりして、その増減の揺れ動きが大きくなることだと考えられているそうです。


精神疾患の要因や病態の説明を、特定のホルモンや仮説を使って説明することは簡単ではないということ、この知識を持っておくだけでも、予期せぬ気分の変化に直面した際に、心に余裕を持ち、柔軟に対応することが出来るかもしれません。


トランスジェンダーとホルモン治療

性的マイノリティーの人々を総称する際の、「LGBT」という言葉には、性的指向によって定義されるマイノリティの人々と、性自認によって定義されるマイノリティの人々とがおり、これらを混同していると、気づかないうちに大きな誤解と差別になってしまいます。勉強会でも確認しました。

性的指向

・性的な感情が向く性別

・レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシャル(B)、アセクシャル


性自認

・自分が属していると思う性別

・トランスジェンダー(T)


「性的マイノリティであれば、みんな、性転換をする手術や治療をしたいのだろう」と想像することは大きな間違いで、からだの性を変えることは、トランスジェンダーの人々に関係することです。さらに、もうひとつ、大きなポイントがあります。トランスジェンダーであったとしても、身体をホルモン治療や手術によって変えるとは限らないということです。ホルモン治療は、トランスジェンダーのなかでも、自分の身体的特徴に違和感を持つ場合に行うものです。


ホルモン治療をすることで、性自認の性別の第二性徴を部分的に獲得できます。性器の肥大や収縮のほかに、筋肉の量や力、脂肪の分布が改められることで、体型の印象が変わります。性別移行では手術が特権視されることが多いようですが、他者からの性別認識により大きな影響を与えるのは、むしろホルモンだそうです。


国内ではホルモンにアクセスするために、①診断を受ける ②個人輸入の二つのルートがあります。日本におけるトランス医療は、日本精神神経学会が定める、GID治療ガイドラインにしたがって行われています。ガイドラインではホルモン療法を含む身体的治療に進むためには、実生活経験がなされていることに加えて、2名の精神科医による意見書が求められています。すなわち、ホルモン治療が行えるかどうかは他者に認められる必要があり、精神科医が治療のゲートキーパーとなっていることがわかります。


 またトランス医療としてのホルモン療法は保険適用されておらず、原則、全額自己負担です。個人輸入の場合、診断はいりませんが、100%自己責任となってしまいます。加えて日本国内におけるトランス医療専門の精神科の数が限られていたり、刑務所ではホルモンの利用は拒否されているのが現状です。このようにトランスジェンダーの人々にとって、ホルモンへのアクセスは容易ではないことがわかります。


まとめ:体調観察と相互配慮の心がけ


今回の勉強会では、性ホルモンと健康をめぐるいくつかの課題を、改めて実感することができました。からだのことを話題にできる場を日常のなかに増やすこと、ホルモンバランスの変化によって不安定になっても偏見や思い込みにとらわれずに様子を見ること、ホルモン治療という選択肢が、経済力や居住地にかかわらず確保されること…


少し前に、デパートで、店員が「生理ちゃんバッジ」を付ける取り組みをしたことが話題になりました(BBCニュース「大丸梅田店、『生理ちゃんバッジ』を再検討へ  働きやすさのため」)。体調の悪さを伝えあいつつ、スマートに配慮や調整をすることがどれだけ難しいかを実感させられ、もどかしい気持ちになるエピソードです。


今回は、目から鱗が落ちるような健康維持スキルを披露したわけでも、議論が白熱したわけでもありませんでしたが、からだを巡る様々な戸惑いや願望について、同じ場でそれぞれがじっくり噛みしめるような時間になったのかなと思います。デリケートな話題で、しかも顔なじみの仲間ばかりではない集まりだったので、話題の設定や話し方など、配慮や調整を心配したのですが、杞憂でした。その場にいたみなさんのおかげで大切な機会を作ることができました。専門知識を分けてくれた発表者のみなさん、そして日頃の疑問を話してくれた参加者のみなさん、ありがとうございました。


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